ハゲの思い出

生活

― 長女の夫 ―

土建屋を辞めて学習塾を始めた頃のお話。

金もなく、アパートも借りられなく…。

仕方なく、夫婦して妻の実家の2階に居候。

しばらくは、ここで我慢。

いやいや、成功しなければ、ずっとこのままか…。

なんて、思いもあったのだが…この生活、基本的に悪くはなかった。

たった1つのことを除いては…。

私はその頃、病み上がりで、毎月病院に出入りしていた。

お友達になりつつある、受付の君に、提出する1枚の紙切れ。

その紙片に、問題は隠されていた。

このことは、世の常で仕方ないのであろう。

この国のルールなんだろうから、私だけ逆らうことはできないのだろう。

十分承知はしているのだが…。

これを出すと、何故か、薄っすらとした笑いが…。

退院直後の俺に降りかかる、この笑みが気になりだす…。

実は、私の保険証には、“長女の夫”とあった。

この表現の、何とも言えない空気感。

転職して、プー太郎している、敗北感。

風邪はひけない。

なるべく他人にこれを見せない。

妻には言えない。口が裂けても言えない。

だらしない夫を、支えてくれているご両親にも…。

しばらくして、そんな生活におさらばできた。

市営の団地に移り住むことができた。

保険証にも私の名前が、はっきりと書いてある。

しっかりと“世帯主”だ。

こんな経験、俺だけかな。

ときどき、家族の会話にでるかな…あはは。

今もそうだけど…。

ほんと実力ないよね。

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